気になる用語「わかった」2

千葉県で、小学五年生の女の子が、知り合いの47才の男性と行方不明になり、沖縄でみつかって、女の子は保護、男性は誘拐容疑で逮捕されるという事件。

誘拐されたとされる女児が、容疑者(47)が沖縄で決めた勤務先の従業員に、「(千葉県の)家に帰りたくない」「沖縄に行こうと(容疑者を)誘った」などと話していたことが分かった。(毎日新聞)[5月16日3時38分更新]
前日深夜の同じ毎日新聞の報道[5月15日23時28分更新]では
8日、祖父(54)が千葉東署に届け出た際、「容疑者に連れていかれたかもしれない」と話していた。
あるいは
男性は毎日新聞の取材に対し、「女の子の家庭が複雑で、家を飛び出したと聞いた。自分の子供と一緒に遊ばせていた。容疑者はおとなしい感じだった」と話した。(毎日新聞)
とあります。

「話していたことが分かった」
「千葉署に届け出た際……と話していた」
「毎日新聞の取材に対し……と話した」
のように、文末の言葉が微妙に違うのと、それに対応して「誰に聞かれて」話したかという点が違っています。
やはり「分かった」というのが不明瞭で、それはわざとそう書いているように思えます。

この記事のタイトルは「<女児誘拐>知り合いの男逮捕 千葉から沖縄まで連れ回す」です。
「誘拐」の正しい定義を知りませんが、しかし最後の報道『<女児誘拐>「帰りたくない、沖縄に誘った」と女児話す』を読むと、女の子の要望に従って男性が連れていった可能性があるようです。両親とは住んでおらず、祖父母・叔父と住んでいたようですし『祖父は「警察に何度も2人を引き離すよう言っていた。』ということからも、そのようなことを警察にわざわざ言う祖父家族との関係よりも本人が男性を慕っていた可能性があり、だとすると誘拐という言葉にはふさわしくないような。ひょっとしたら、男性が女の子をまさに「保護」しようとし、また女の子もそれを望んでいたのかもしれません。
また、時事通信の記事では「現金引き出し潜伏先発覚=千葉の小5女児、ビーチ近くで保護−沖縄」とありますが「潜伏」という言葉もなにかしっくりきません。

もちろんこれは仮定の話なので、実際に誘拐なのかもしれず、潜伏なのかもしれません。ですが、そうでない可能性もあります。であるのに、その言葉を使っている。
で、最後で誘拐じゃないかもしれないとトーンダウンしてきて、その記事になったら文末が「分かった」になっている、というのはやはり理由のあることではないでしょうか。なんか責任逃れの気配がするのですよね。

事件としては結果的に大事なものではありませんでしたが、この女の子と男性にとっては、報道されたこと自体がこれからの人生に大きく影響するでしょう。報道されていなければ、それもこのような言葉を使った報道でなければ、本人と家族だけの問題であったはずです。

新聞に多々掲載される他の事柄と比較すれば小さなことですし、言葉の使い方もほんとうに細かいことですが、その細かい言葉の使い方ひとつで、人の人生に影響があるかもしれないことを意識していたいと、文章を扱うことを仕事の一部とするぼくは考えます。
そして、言葉の使われ方にあらわれる、伝える側の意図を読み取りながら、事実を見極める目を持ち得たいと思います。とても、むずかしいことですけれど。

※なお、上記引用元ではいずれも容疑者実名ですが匿名にしてあります。

[編集・情報・ことば]
2004.05.17 - 01:29 AM |
とらわれのひとびと | スペインの雨は主に広野に降る

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