書籍・雑誌  (公開順)

秋庭俊『帝都東京・隠された地下網の秘密』

以前知り合いに借りたのだがほとんど読まないまま返してしまって気になっていたので自分で買って読んだ。
着眼点はおもしろい。
でもめちゃくちゃ読みにくい。
文章が下手だし構成力もなってない。著者もこれではジャーナリストと名乗るにはちょっと問題だし、編集者はなにをやっていたのか。
政府が隠蔽している多くのことがある、という指摘をするのであればそれをきちんとしたデータと検証によって暴くことこそジャーナリズムであろう。
推測が多く、また推測のまま終わっている話が多いので、こちらが検証したくなるおもしろさはあるが……(笑)
パート2がでたらしいが、とりあえず立ち読みはしてみよう。

洋泉社刊
帝都東京・隠された地下網の秘密
 ISBN:4896916808

帝都東京・隠された地下網の秘密〈2〉地下の誕生から「1‐8計画」まで
 ISBN:4896917847

2004.01.23 - 05:37 PM ||コメント (0)

今日買った雑誌

『通販生活』2004年春号
テンピュール枕かメディカル枕かどちらを買おうか迷っていたんだけど、やっぱりメディカル枕を買ってみようと決めました。

『ku:nel』 vol.6
花巻の高村山荘(光太郎が晩年すごした小屋)のリポートが載っていました。いつかいってみたい場所です。

『BE-PAL』 2004年2月号

2004.01.26 - 10:51 PM ||コメント (0)

今日買った本

情報編集の技術』矢野直明、ISBN:4-00-700026-3
宇宙人としての生き方』松井孝典、ISBN:4-00430839-9

2004.01.28 - 10:55 PM ||コメント (0)

『暮しの手帖 保存版III 花森安治』

『暮しの手帖 保存版III 花森安治』を読みました。
すごい人だったんだなあ。
広告を入れない、徹底した商品テストを実施する、といった程度の知識は持っていたけど、ぼんやり抱いていたイメージ以上の、筋金入りの編集者。編集者という言葉にはちょっとおさまりきらないけれど。

かなりぼくが好きそうなタイプ(って自分で言うのも変ですが)だし、『暮しの手帖』は、出るたびになんとなく本屋で気にはなっていたのに、これまで一度も買ったことがなかったのは、ぼくが興味を抱く前に花森安治がすでに亡くなっていたからかもしれない。78年に亡くなっているから、ぼくが書店で手にとってみるようになってからのはもう花森の編集したものではなかったのですね。
でもなんでうちにはなかったんだろう。母親がとっていなかったのがちょっと不思議。今度聞いてみよう。

初期の頃のを実際にみたいけど、高くなってるのかな……と思って調べたら意外にそうでもない。といっても古書としては高いか。一冊800円ぐらい。50号まとめて20000円というセットもありますね。
花森自身が毎号制作していた表紙(表紙絵を自分で描いてたってのも初めて知って驚いたが、ロゴまで毎回手書きって!? あの独特な字は記事のタイトルにも使われてるけど、全部編集長直筆だったんですねえ)もいいものがあるし、レイアウトや写真の使い方は、今見てもなかなかすごい。

この『保存版』で花森さんのすごさはひしひしと伝わったのですが、寄稿している人たちの原稿は、読んでて「ずいぶんいいかげんなもんだ」とも。
花森さんって人はいろんな伝説を生んでいるようではあるんだけど、だからこそ、いろんな人が同じエピソードをずいぶん違った形で記憶してて、そのいい加減な記憶のまま書いてる。
同じ話をこれだけ違ったバリエーションで読ませられると、この人たちの文章をまじめに読もうという気さえなくす。ちょっと調べたり人に聞けば確かめられそうなことなのに、しかもそうそうたる著者ばかりなのに……それこそ編集者はこのままでいいと思ったんでしょうか。とても不思議。

しかし花森亡き後四半世紀。よくもってるなー。広告なしで、商品テストなんて手間とコストのかかることをやって。……と思ってたら最新号には商品テストがないらしい! だいじょぶか?

2004.02.01 - 02:02 AM ||コメント (0)

『黒蠅 』

パトリシア・コーンウェルの検屍官シリーズ、待望の最新刊。前は毎年12月に出ていたのに、今回は三年ぶり。ずいぶん待った。
しばらく前に買ってすぐ読み始めたものの、電車の中など細切れで読むには惜しく、はじめのほうでやめておき、眠れない夜のためにとっておいた。
その夜が訪れたので一気に読了。
以下ネタバレ注意。

コーンウェルは何かを迷ったのだろうか。
面白さは相変わらず格別で、これまでとは違う魅力もある作品でした。
でも今回はストーリー上も、設定上も、そして文体も大きい変更がされていて、それらがいったいどのような理由によるものだったのかには、興味があります。
検屍官シリーズを今後も長く続けようとしたとき、ベントン亡き後のスカーペッタを書き続けるのはつらすぎたのだろうか。
たしかにその後のスカーペッタは見るに忍びないような傷心を負っていて、それは前作・前々作でも癒されることがなかった。
でも、その問題をはじめからなかったことにするのではなく、なにかの形で乗り越えていく様を見せてほしかったとぼくは思います。
大切なひとを失うということは必ずだれにでも訪れることで、スカーペッタのそのような姿を見せてくれることは、そうした場面に遭遇する様々な人の救いになっただろうにと思えるのです。ことに、死を通しての情景を描き続けているこのシリーズにおいては。
今作でもニックには、その母親の死を乗り越える試練をスカーペッタらしいやりかたで与えようとしているのに。

シャンドン一家にはいずれにせよ殺されていたであろうロッコに対して、なぜルーシーが私怨により私的に性急に手を下さなければならなかったのか。それをいとも簡単に許したスカーペッタはどうしたことだろう。小説の中の話、何もつねに法に則った行動をしなければならないわけではないが、彼女なりの正義のありかたや葛藤があってもしかるべき気がします。

そのほか
・スカーペッタの設定上の若返り……訳者も書いているように、これまでの設定どおりで老齢を迎えていく姿をぼくは読みたかった。若くした意味がわからない。むしろ逆効果。
・最高級の設備を誇り、美しい塗装を施した自分のヘリコプターを、たった一回の最初の作戦で失っちゃっていいの、ルーシー。ヘリコプターでなくてもできる作戦、ヘリコプターを失わなくてもいい作戦があると思えるのだけど。
・ニックの登場はおもしろい。今後のシリーズにどのようにかかわってくるのか興味深い
・ジャン・パブティストは逃亡し、シャンドン一家が壊滅したわけでもなく、つまり計画を失敗したのに姿を現してしまったベントン。今回の終わり方はなんとなくハッピーエンドだけど、次回が怖いです。
・ラストに近づくにつれ、「この残りのページ数でどうやってこの本は終わるのだろう?」と妙なハラハラ。
・にしても、ただの「語り」で説明終わりって……。

『黒蠅 (上) 』
ISBN:4062739070

2004.02.13 - 02:13 PM ||コメント (0)

『理髪店主のかなしみ』

この間ビデオ屋に行って邦画の棚を見ていたら『理髪店主のかなしみ』というタイトルがあって仰天した。
こ、これってあの、ひさうちみちおの?!
と箱を確かめたらやはりそうらしい。
あのカルトな超フェチコミックをどうやって映画に? いくらなんでも漫画のストーリーをそのまま映画にはできまい。
田口トモロヲが主役であるところから、ちょっと路線が違いそうな予感はしつつ、しかしいったいどのように料理して映画にするのかめちゃくちゃ興味がわいて、つい借りてしまいました。

で、観たところ……たしかに原作とはいろいろ違うのですが、根底に流れるフェチの精神はきちんと踏まえた佳作でありました。この監督(広木陽一)、自分もきっとフェチに違いない。
と調べてみるともともとはいわゆるピンク映画の監督だった人のようですが、未見でぜひ観てみたい!と思わせる映画ばかり。こりゃ探さなきゃ。

以下、観たいリスト。()内は自分の注目点。
『東京ゴミ女』(柴咲コウ、田口トモロヲ出演)、『美脚迷路』(ひふみかおり、鳥肌実出演)、『君といつまでも』(山本直樹原作、田口トモロヲ出演)、『不貞の季節』(団鬼六原作、大杉漣出演)

コミックを原作とした安易なドラマ化、映画化が多いが、こういうのは大歓迎。どんどんDVDにしていただきたい。


コミック →『理髪店主のかなしみ
ISBN:4872570588

DVD →『理髪店主のかなしみ

2004.02.13 - 03:16 PM ||コメント (0)

『日経サイエンス』(2004.03)

・「私たちはなぜ眠るのか」
睡眠すること、そしてレム睡眠とノンレム睡眠が存在することの理由はまだよくわかっていない。
覚醒時に傷つけられてしまう脳内の細胞はノンレム睡眠時に修復されているらしく、それがノンレム睡眠の存在する理由、という仮説。
この仮説が正しいとすると、寝だめができないのはうなずけるような。細胞が修復されきってしまえばそれ以上眠っても意味がないものね。
日中、電車を待っているときなどの意味のない時間に、5分でもノンレム睡眠ができれば、その間に少しでも修復しなければならない細胞が減って、夜あまり寝なくてもすむのかな。
もっともぼくはそういう寝方ができないので残念。
眠るのはすきだけど、寝る時間がもったいないと思うことは多い。食べることもそうだけど、好きなときにだけすればいいようになればいいのにと思います。

・「グルジアの化石が明かす初期人類の旅」
初期人類がアフリカで発生して、アフリカを出たのは100万年前と言われていたのだけれど、黒海沿岸で175万年前の原人化石が発見されたそう。まだほんの一部しか発掘がすすんでいないようなので、10年後には人類の初めの歴史ががらりと書き換わっているかも。こういう話は、わくわくする。

・「米探査機 火星着陸」
NASAのサイトで動向はいちおう追ってるんですが、探査車の大きさ、ちゃんと知らなかったけど、思っていたよりけっこうおっきいんだな。1.5m×2.3m×1.6m。
赤い大地で、がんばれ、スピリット。オポチュニティー。

2004.02.20 - 05:17 PM ||コメント (0)

『夏目房之介の漫画学—マンガでマンガを読む 』

夏目房之介氏の漫画評論は、自身が漫画を描くからこその視線が魅力だが、その出発点となった本の文庫化、のようです。
さっと読み終わりましたが、線の流れやコマから読み解く手法がやはり新鮮でおもしろい。

『夏目房之介の漫画学—マンガでマンガを読む 』
ISBN:4480026258

2004.03.05 - 04:17 PM ||コメント (0)

『ZERRO』

様々な符号や文字を見開きで扱った内容もとても面白いが、装丁も紙も凝っていて美しい本。
このような本は、手元においておきたいと思う。

ZERRO』 松田行正 著
ISBN:4434038656

2004.03.05 - 09:20 PM ||コメント (0)

『人間にとって法とは何か』

人間にとって法とは何か』 (橋爪大三郎 著)
ISBN:4569630847

オウム裁判の一審判決が出て、法についての興味から購入。

最近、法というものが機能しなくなっていることへの危機感がある。
自衛隊の派遣についても、松本智津夫被告の裁判についても、なんだか漠然とした不安を抱いていたが、この本を読んで、今ぼくが住んでいる社会の中で法治がゆらいでいること、もしくは、法治というものが現在の日本社会になじんでいないことへの大きな不安によるものであるということがはっきりしてきた。

さらにいえば、それは論理が重んじられないことへの不安であり、何を言っても無駄かもしれないということへの恐れでもある。

いつも深みのある視点を与えてくれる橋爪大三郎氏著。以前からポット出版の沢辺さんに誘われている「人間学アカデミー」の講義録が新書になったものでした(今度はぜひ聞きにいきたい)。

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2004.03.08 - 01:13 PM ||コメント (0)|トラックバック (1)

漫画『アクション』

漫画『アクション』が復刊しました。

ぼくには漫画週刊誌を買うという習慣がなく、それはよく言われる「大の大人が電車の中で漫画を読んでみっともない」とかいう理由ではなく(別にみっともないとは思いません。ただしエロ系は、漫画に限らず、嫌悪する人がいる公共の場ではひろげて見ないほうがよいとは思います)、いいと思える漫画はまとめてちゃんと読みたいから、細切れに週ごとに読まされるのを好まないのと、読みたくもない漫画といっしょに買わなければならないのも無駄に思えるからです。

でも例外的に、大学時代の一時期、『アクション』を買っていたことがありました。また仕事に就いてからは、『モーニング』を毎週買っていたこともありました。それらに共通していたのは、ほかの漫画週刊誌にはない、新しいものを希求する雰囲気があり、漫画家が表現を一心に試み、編集者が冒険している面白さでした。
ただそれでもやはり細切れ、ゴッタ煮の形式であることには変わりなく、たしか月刊『アフタヌーン』が創刊されるとともに、そちらを買うようになり、週刊誌を買うのは止めたような気がします。
『アフタヌーン』は、月刊だということもありましたが、『モーニング』よりさらに先進的で、新しい作家の描く新しい世界を積極的に取り上げていて、ほかの雑誌では読めない漫画ばかりでした(それは今の『アフタヌーン』も変わらないようです)。

ただし、ぼく自身はここ数年もう単行本しか買わなくなり、さらには漫画喫茶の隆盛により、買わなくても新刊漫画はほとんど読めるようになったので、よほど手元においておきたい単行本以外は買わなくなりました。

しかし復刊した『アクション』を買ってみて、この雑誌がまた新しいことを始めたのを知り、漫画という、リアルタイムでの市場性を持つ表現方法のさらなる拡がりを感じています。
蓮池透氏が原作を書いて正面から拉致問題を扱っている作品をはじめ、死刑、こどもの性、カルト宗教、警察の腐敗、格闘技、キャバクラなどなど、今まさに旬な社会問題をテーマにした漫画満載です。キャッチコピーには「疾走するメッセージコミック」とあります。

社会派と言われる漫画作品はこれまでもありましたが、雑誌全体が社会的なテーマを中心にすえ、かつエンターテイメントとして成立させようとする試みはとてもおもしろい。週刊誌ではなく隔週刊ですが、2号目にも新連載開始が予告されていて、楽しみです。

2004.04.22 - 03:50 AM ||コメント (0)

知るための方法を知るための方法

科学というものは、実験と計算でできた冷たいゲンジツ、みたいに見られているところがあります。

でも本当はそうではなく、わくわくする気持ちを源泉とした、世界の秘密を知るための方法、であるとぼくは思います。
そしてその「方法」は、科学者でないぼくらにとってもまた、この世の中でいろいろなことを知ったり考えたりするために絶対必要な、とても大切な「方法」です。

科学とは、知識ではなく方法だ、とずっと思っていたぼくですが、その方法そのものを考える学問がちゃんとあることを、最近になってようやく知りました。
自分の不勉強さにあきれつつ、またひとつ面白いものに出会えた喜び。

「科学哲学」とよばれるその学問をぼくに紹介してくれたのは、「科学と科学でないものの線引き」という課題を通して科学とは何かを考える『疑似科学と科学の哲学』という本。とても勉強になりました。
科学それ自身についての理解はもちろんですが、「どのように知り、考えるのか」ということについて「知り、考える」ためのとてもいい教科書です。
頭をフル回転させながらでないと読み進められないので、時間がかかりましたが、でもたぶんこれからも何度もひっくり返して読むだろう一冊です。

疑似科学と科学の哲学
伊勢田哲治著、名古屋大学出版会刊
ISBN:4815804532

著者は名大助教授で、名古屋大学出版会刊だから、実際に教科書として使われているものだと思います。
そういう意味では、「どのような題材で、どのように教えるか」ということについても、とても参考になりました。内容は堅いけれど、構成も文章も読みやすく、おもしろいので。

2004.05.01 - 01:52 AM ||コメント (0)

『隠すマスコミ騙されるマスコミ』

隠すマスコミ、騙されるマスコミ 』読了。

小林雅一著、文春新書
ISBN:4166603183

興味深い内容だったが、気になるところが少しだけあったので著者にメールを書いてみた。

以下、著者へのメール。

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2004.09.13 - 09:36 PM ||コメント (0)

文藝春秋へ問い合わせ

ネットで調べた小林雅一氏のアドレス(masakobayashi@netzero.net)はエラー(Service Unavailable)で戻ってきてしまったので、本の発売元である文藝春秋に連絡先を尋ねようとサイトに行った。
問い合わせ先のメールアドレスや電話番号がどこにも見つからず。
しかたがないので、
ご意見(Feedback Form)
https://www.bunshun.co.jp/feedback/index.htm
から記入。

結局、著者へのメール転送はしてくれないらしい。メールアドレスを持っていない著者も多かろうが、持っていれば郵送より手間がかからないのだから、それぐらいしてもよいのに。

以下経過。

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2004.09.16 - 03:37 PM ||コメント (0)

こうの史代 『夕凪の街 桜の国』

宇宙の、地球の、生命の、ヒトの歴史という時の流れの中に、自分がいることを知り、感じることができるのは、ヒトとして生まれ生きている幸福のひとつだろうと思う。
自分が今、ここで生きている、ということ。いつかは必ず死ぬ、ということ。
自分以外のすべてのひとも同じだということ。
それを理解するための知識と、感じるための想像力が与えられている奇跡に感謝したくなる。

そして、その能力を最大限に発揮して、ほかのひとに伝えることができるひとがいて、その作品に接することができるということにも、感謝する。

100ページあまりのこのマンガは、そのページ数にかかわらず、読み終えるのに時間がかかる。
ストーリーが難しいわけでも、重いわけでもなく、むしろ軽快。
絵が複雑なわけでもない。やわらかく、むしろかわいらしい。
にもかかわらず、1ページ1ページ、ひとコマひとコマを軽く読み流していくことはできず、ついじっくりと見入ってしまう。
一度読み終えても、また何度もまた読み返してしまう。
そして読み返すごとに、作家が込めた思いや意図を新たに発見して驚き、心に響く。

日常の生活のなかの小さな所作やモノをていねいに念を入れて描き、そうした表現が、ひと同士のいろいろな関係や、時の流れの中でそれぞれの生き方を選択していくことに見事につながっている。

だれかが、憎しみや利益のためにおこす争いに、理不尽に巻き込まれることの痛み。
ほんの気まぐれのような偶然だけで、生き残ってしまったことの苦しみ、生きている希望。
記憶を手渡してゆきたい、それを受け取りたいという思いが、時を超え世代を超える。

ひとが、抱えて生きている喜びと悲しみ。その両方に、涙する。

夕凪の街 桜の国 』 こうの史代 ISBN:4575297445

2004.11.25 - 07:11 PM ||トラックバック (1)

「電車男」著作権と「知的財産」

「電車男」。いろいろなところでいろいろな話題になっているようです。
関連するリンクをたどっていて見つけた下記のページにある記述、これはひどい、と思いました。

「電車男」の著作権は?[ipr.go.jp]

「内閣官房 知的財産戦略推進事務局長」という肩書きを持つ荒井寿光氏が、その局のサイトに書かれているエッセイです。
ネット上のコンテンツの動静と、著作権そのものについて、この荒井氏は何もわかっていないのではないか。
わかってないがゆえに、ネットが存在するようになったことによって著作権に生まれている問題点や課題についても、まったくわかっていないのではないかと思います。

これが素人のブログに書かれていることなら、ただわかっていない人が日記をつけているだけ、ですむのですが(実際、この件については、同じ素人のぼくから見ても、それは違うだろう、という記述があちこちで散見されます)、「知的財産戦略推進事務局」という組織のトップがこれでは……。

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2004.12.07 - 07:04 PM ||コメント (0)|トラックバック (2)

『オーマイニュース Ohmynews の挑戦』で落ち込む

インターネットによる新しいメディアのありかた、とか、新しいジャーナリズムを作っていく、とか、そんな関係の本を読むことは、ほとんどの場合ぼくに元気を与えてくれます。
そしてこの本は、そのとおりの内容が、世界の注目する新しいメディアの長自身によって書かれているにもかかわらず、読めば読むほど、ぼくは暗澹たる思いに包まれました。
Ohmynewsの活躍はいくども伝え聞くところであり、これからのメディアのすばらしい見本として強い興味を持っていたし、この本が出ていたことも知っていたのに、なぜか自分がなかなか手を出さなかった理由も、はっきりしました。

日本では、このようなメディアは実現できない。

韓国の市民の意識のありかたに感嘆するとともに、それとわれわれを比べたときの落差にがっくりきました。オ・ヨンホ氏の言う「準備された市民」がいないばかりか、「準備」の必要すら感じてない市民が大多数ではないでしょうか。

しかし、そのようなことを理解することができるだけでも、本書を読むことは価値がありました。

ソフトバンクがOhmynewsに出資して、日本でも、日本語と日本人の市民記者によるニュースサイト設立が進んでいるようです。あきらめず、期待したいと思います。

オーマイニュースの挑戦 韓国「インターネット新聞」事始め 』
呉連鎬(オ・ヨンホ)著
太田出版刊
ISBN:4872339304

ソフトバンク株式会社 ニュースリリース
韓国・Ohmynews Co., Ltd.および同社日本法人への出資について 2006/2/22

2006.03.11 - 08:42 PM ||コメント (0)|トラックバック (1)

月刊アスキーの再生を祝う

月刊 ascii (アスキー) 2006年 12月号 [雑誌]

「パーソナルコンピュータ総合誌」としての『月刊アスキー』が終わる、と知ったときの切なさは、70年代末から80年代初頭に「マイコン少年」だった人に共通するものではないでしょうか。

もうずっと買っていなかったアスキーの最終号を手にし、その内容を見て、ああたしかにこの雑誌の役割は終わったのだな、と実感しました。また、正直なところ、最終号は思い出話をかき集めることでお手軽に作ったという感じがアリアリと出ていて、それもちょっと切なかった。

ですが、それはひょっとしたら「振り返り」より「再生」のために力を割いているからなのではないか、という期待もどこかに持っていたのです。

「新生」月刊アスキーは、その期待に、予想以上に応えてくれています。雑誌のコンセプトも明確かつ的確だと思いますし、内容も、そのコンセプトにきちんとまじめに取り組んだ結果として充実したものになっています。

何より、とても「アスキーらしい」。
時代の中で、社会をこれから作っていくだろう新しい部分を、あふれる好奇心と、誠実な探求心で切り取って「編集」し、ポジティブでワクワクするような情報として届けてくれる。
それはかつての『月刊アスキー』が持っていたもの、そのものです。

「ビジネスとITとのギャップを埋める」というコピーは、ぼく自身が日々自分の役割として考えていることにも深く結びつきます。この「ギャップ」問題の重要度の高さに比して、それを解決することのできる人、メディア、ひいては企業は、ごくごく限られると感じています。この分野は、ともすれば専門的すぎたり、オタク的、サブカル的になったり、あるいは逆にあまりにビジネス寄りになりがちで、それは両者をうまくバランスした立場にいる人の少なさによるものです。

新しい月刊アスキーを見て、そうだ、アスキーこそこの立場にふさわしかったんだ、ということに、気がつかされました。

特集の、ブログによる企業ランキングは、業界ではすでに当然のように調査・利用されている指標ですが、このような形でわかりやすく、かつ網羅的に表現されたものは、ITの側も、ビジネスの側も、強い関心を持つものでしょう。

本城直季氏の表紙採用もいいなあ、と思う。(ただ全体が見えにくいため、本城氏の写真の魅力が半減してしまっているのは残念。遠景と近景のボケがちょうど文字にかかっているところなので、そのためにぼかしていると誤解されそう)

Squeakも、ジャストシステムが推進する「xfy」も、それぞれ強く注目している取り組みだったのですが、それらが、アラン・ケイや浮川夫妻へのそれぞれの取材インタビューによって紹介されているのも、なんだかうれしい。かつて一時代を作ったヒーローたちが、変わらずに新しい時代を拓いていく先頭に立っていてくれていることと、アスキーがそれをきちんと評価してくれている、ということが、うれしいのです。彼らと同じように時代を牽引し、歩んできたアスキーに載るからこそ、うれしい、ということでもあります。

ロゴの小文字化が、「これまでの月刊アスキーと確実につながっている、けど、新しい」ことを象徴しているようです。かつての読者としては、月号の数字の上に、4ビットのマルが残っていることや、背に旧ロゴが残っていることもうれしい。

『アスペクト』や、初期の『週刊アスキー』などで幾度かビジネス寄りにアプローチしつつもなかなかうまくはいかなかったアスキーですが、今回の新生『月刊アスキー』は、かなり期待度大です。
パソコン雑誌を作ってきた編集者たちが、そこで表現してきた自らの思いや態度を、時代の要請にきちんと応えながら作り上げた、という感じがして、アスキーの底力にいまさらながらに驚きます。

次の号も、とても楽しみです。

2006.10.27 - 07:37 AM ||コメント (0)

雑誌は編集長のもの。とはいえ……

いろいろな意味で「雑誌は編集長のもの」だと思うけれど、こんなことが起きていたとは知りませんでした。スラッシュドットで今頃知りました。

月刊科学雑誌『サイエンスウェブ』の読者の皆様へ
現在、編集長が病気療養中のため、『サイエンスウェブ』6月26日発売号(8月号)は休刊とさせていただきます。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願い申し上げます。
http://www.scienceweb.co.jp/info.htm

 (※その後一時復刊したものの、現在また休刊している模様)

『月刊天文』休刊のお知らせ
本年9月、本誌編集長、飯塚和良が体調を崩し入院いたしました……(中略)……やむなく休刊することを決定しました。
http://www.chijinshokan.co.jp/getten_suspend.html

編集長が仕事に就けなくなることで出なくなるというのは、よほど編集長の個性が出ている雑誌であればわかるのですが。

いずれもサイエンス系雑誌だということが、残念です。
Webがこうした関連の情報を提供し代替している(ようにみえる)ことや、そもそも科学や天文に対する強い興味を抱く人たちが少なくなってしまったことが、間接的な、しかし最大の要因でしょうか。
十分な読者層が確保されれば、広告も入り、人材の登用も可能なのでしょうが、それができない、ということですから。

いまどきの高校の天文部なども、実質的な活動のメインはWebで最新情報を検索することだったりして……。

2006.11.06 - 09:14 PM ||コメント (0)

筒井康隆『パプリカ』(小説版)

アニメ映画化されたのを機会に、読了。

筒井康隆は本作品を書きながら、一晩で髪が真っ白になるほど夢に「犯され」たそうです。
そういえば、テレビか雑誌で見た筒井康隆が、いきなり髪を全部白髪にしていて「いったいどうしたんだろう、今まで染めてたのかしら」と思っていた記憶があります。
……そんな思いまでして作られた作品なのだけれど、ぼくとしては、筒井作品としてはいまひとつな満足度です。(読者って残酷ですね)

理由のひとつは、千葉敦子というキャラクターのリアリティ。
こういう女性が、筒井康隆のひとつの理想像(たぶんパプリカというキャラクターも含め)なのか、とも思うのですが、行動のリアリティはともかく、ひとりの人間としてそのような行動をする理由が伝わってこない。
まあ、そもそも理由などなく、このような女性の存在そのものをひたすら愛で、描きたかったのかもしれません。

また、ぼくが最も尊敬する人間のひとりである今は亡きジャーナリストと同姓同名であるがゆえに、この名前を持つ人物像に対するぼくの評価は、かなり厳しくなっている可能性があります。


理由のもうひとつは、終盤の展開……これもやはりリアリティ、でしょうか。
別の言い方をすれば、説得力。
夢が現実と融合してしまうことの論理的(にみえる)説明を、ちゃんとしてほしかったなあ。


とはいえ、読み出したらおもしろくて一気に読み終えてしまったんですけれどね。


筒井康隆は、中学のときにファンになり、当時文庫化されていたものはすべて読破していたのですが、その後はなぜかあまり読んでいませんでした。
往年のファンとしては、他人の意識の中を覗くという設定、そして覗くのが美人女性、という点でどうしても七瀬シリーズを思い起こします。

七瀬シリーズでは、やはり一作目の『家族八景』。ちょうど思春期に読んだこともあるでしょうが、あの衝撃は忘れられません。自分のその後の「人間を見る目」に強い影響を与えたと思っています。

人生のどのような時期に読むかで、また評価もずいぶん違うでしょうから、そういう意味で単純に『家族八景』と『パプリカ』を比較して評価をしてはいけないと思いますので、これは今時点でのごく軽い印象でしかないことを断っておきます。
もういちど『家族八景』を、何十年ぶりかで読んでみようかな。

ちなみに、七瀬シリーズ二作目の『七瀬ふたたび』は超能力アクションものとして、『八景』とはまた違う視点でけっこう楽しめましたし、のちに少年ドラマシリーズ化されたときの、多岐川裕美が演じた七瀬もわりと好きでした。(当時ビデオなんてありませんでしたから、その一部分でも保存しておきたい一心で音をラジカセで録音し、画面を写真に撮ったりもしましたね)

パプリカ(新潮文庫)
パプリカ
新潮文庫版 700円(税込)
ISBN:4101171408


パプリカ(中公文庫)
パプリカ
中公文庫版 780円(税込)
ISBN:4122028329


新潮文庫版の解説は斉藤美奈子、中公文庫版は香山リカ。
解説者の選択いいですね。どちらもぼくは信頼している方ですが、それぞれの解説、やはりなかなかよかったです。


家族八景
家族八景
新潮文庫 460円(税込)
ISBN:4101171017

2006.12.14 - 07:41 AM ||コメント (0)

『広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由』

「We are not alone. —— 宇宙にいるのは、われわれだけではない」
というコピーを初めて見たときの、わくわくするような気持ちを忘れることはできません。
そうだよなあ、と素直に思い、なんだか安心したような気になったものでした。
このコピーのつけられた映画『未知との遭遇』をぼくは大いに楽しみ、今でも大好きな映画のひとつです。

そうした気持ちは、セーガンをはじめとする科学者が、様々な方法で地球外知的生命の探査を実施したり、地球外知的生命へのメッセージを惑星探査機に搭載したりする試みを知るにつけ増大され、SETI@home[berkeley.edu]が始まったときにはウキウキしながらMacにインストールして、コンピューターを使わないで放置することに喜びを見いだしたりしたものでした。(今でもSETI@homeは入れているのですが)

さて、この『広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由』という本。
発売当初からチェックしていて、「いずれ読むリスト」には入っていたのですが、なぜかすぐに読もうと思うまでにはいたらないでいました。しかし、読み終えた今はむしろ、なぜ早く読まなかったのだろうかという思いを強くしています。

原題は "If the Universe is Teeming with Aliens.... WHERE IS EVERYBODY?"(宇宙がエイリアンだらけであるなら、そのみんなはどこにいるんだ?)。

このテーマの探求そのものも非常におもしろいのですが、それよりもぼくにとっての一番の魅力は、「フェルミのパラドックス」に対する50の回答において披露される、わかっている事実を元に別の事実を推論していく過程です。それは科学そのものの魅力であり、また思考するということの喜びでもあります。

そしてこの本の結論は……宇宙にいるのは、たぶん、われわれだけだ、というものです。
それが意味することは、こうしてぼく自身が限りない喜びと感じる「思考」や、宇宙そのものの存在、そしてその中にいるわれわれという存在への「認識」もまた、このあまりに広大な宇宙のなかで、たぶんわれわれだけが持っている、ということでもあります。

冷静に事実を見つめ、正確に思考しようとすればそうなる、という提示は、本エントリーの冒頭に示したうれしさとはうらはらに、残念ながらぼくも納得のいくものです。推定による数値のいくつかは、事実のものとは異なるものもあるでしょうが、それにしても結論が変化するほど大きな違いはないように思えます。

しかしながら、そうした数々の推論によって結論に至る過程で説明されるのは、つまりは地球、その上に生まれた生命、生物、人類、そしてその文明というそれぞれの存在の、恐ろしいほどの稀少さです。

137億年の長大な宇宙の歴史の中、940億光年の広大な宇宙の拡がりの中で、今ここにいるわれわれだけが、宇宙の存在を、時間の存在を、認識しているのかもしれない。

ちょっと想像しただけで頭がくらくらしてくる、無限といってもいいあらゆる偶然の重なり、仏教の用語で言えば「因縁」が果てしなく連鎖して、今こうしてブログを書いているぼくを存在させているということ。

このことはまた、この本をぼくが読んだ結果得た、もうひとつの大きな喜びです。
それは、身の引き締まるような孤独感でもあるのですが。

広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由—フェルミのパラドックス
広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由—フェルミのパラドックス
ISBN-10: 479176126X
ISBN-13: 978-4791761265

2007.07.10 - 08:43 AM ||コメント (2)

SIGHTとSTUDIO VOICEに元気をもらう

教育基本法改定のショックが大きく、自分はいったいどうするべきなのかとやや途方にくれつつ考えているうちに、重要法案が次々に強行採決、無力感は増すばかりでした。

が、『SIGHT』8月号を読んで、すこし元気がでてきました。
SIGHT (サイト) 2007年 08月号 [雑誌]
SIGHT (サイト) 2007年 08月号

様々な立場の、様々な角度からの考察による、論理的な結論としての非戦・不戦・反戦。
戦争をすべきではないのは、考えてみれば当然の帰結だ、ということが様々な言葉や論理で語られています。
ありがとう、渋谷さん。元気がでました。

また、『STUDIO VOICE』は創刊30年の中で初めてという政治特集。
STUDIO VOICE (スタジオ・ボイス) 2007年 08月号 [雑誌]
STUDIO VOICE (スタジオ・ボイス) 2007年 08月号

こちらも、読み応えがありました。

何か書かなければ、何か動かなければと思いながらも、「考えがまとまらない」という理由でいつまでも書けず、動けずにいたようなところがあります。
ですが、まとまるのを待っていてはどんどんとモノゴトが進んでしまい、結果、考えた意味がないということになりかねない現実があります。信じられないスピードで悪くなっていっていると思えます。
それに、どうせぼくが考えても何かにしっかりまとまるなんてことはないんですね。
あとから考えが変わるかもしれない、ということを恐れていてもしかたないので、今時点でのぼくの知識に基づいて、今時点のぼくの思いを書くしかない。伝えるしかない。
そうするためのエネルギーを、2冊の雑誌からもらった気がします。

2007.07.17 - 08:07 AM ||コメント (0)

サンタさんへお願い:Kindleをください。

ああ欲しい。欲しい。
これぞデジタルブック。
いままで何度も裏切られてきた、電子ブック端末の実現が、いまこそ現実のものに。

Kindle: Amazon's New Wireless Reading Device

……とはいえ、iPhoneに引き続き、これもまた指をくわえて何年かをすごさなければならなさそうなのが、なんとも辛い。

・Kindleの日本語(多国語)対応はできているのか
・日本の既存ケータイの回線利用はできるのか
・日本語でデジタル本はどれほどあるのか
等々のでかい課題が……。
サンタさん、端末だけじゃだめなんです。
これらを全部ひっくるめて、どうかぼくにプレゼントしてください。

せめて日本のどうしようもない既存電子ブック端末たちが、Kindleをみて、Kindle上陸前に同等もしくはそれ以上のサービスと製品を開発してくれることを望みますよ。

これ使うとAmazonに、何を買ったかだけでなく、いつ読んでるとか、どこまで読んだとかも筒抜けになるのかなあ。そんな情報からターゲティング広告出してきたりするのかなあ。
厚い(というのももはや比喩でしかなくなるが)本を途中で挫折したら『1時間で読める○○』なんて本を推薦してきたりとか。
もはやAmazonにすっかり魂をとられる感じですが、しかしそんな魂売ってもいいから欲しい、ぐらいのもんかも。

買った本はいつでも再ダウンロードができるってことは、Amazonがぼくの本棚にもなってくれるということです。本が占めている面積分の家賃代も、本代に含まれちゃうってことです。

「蔵書」とは結局ライセンス取得のことになるんだな。
自分の持っている音楽をiPodによってすべて持ち出せるようになったように、自分の蔵書を事実上いつでもすべて持っていられるという世界が来るわけです。

すばらしい。
ほしい。

2007.11.21 - 09:22 AM ||コメント (0)

『眼の誕生』

眼の誕生——カンブリア紀大進化の謎を解く 眼の誕生——カンブリア紀大進化の謎を解く
アンドリュー・パーカー著
草思社刊
ISBN-13: 978-4794214782

「光あれ」
と神が言ったのは、天地創造の直後でした。
世界のはじまりに光があるというこの話、実に象徴的に思えます。

この本では、「生物の多様性の増加は、光を見ることによって爆発的におこった」という仮説が、強い説得力をもって語られます。
いや、おもしろかった。

こういう本にしては珍しく、一人称が「ぼく」であるのが最初から不思議で、でもそうしたくだけた感じがまた読みやすかったのです。訳者によれば、これは気鋭の科学者である原筆者の、はじめての一般向け著書であり、筆者の青春記でもあるから、ということであえて「ぼく」にしたとのこと。なかなか勇気ある訳出ですが、成功しているのではないでしょうか。

この本を読んだあとでは、自分が今、眼を使って世界を認識しているということ、さまざまな色を判別しているということ、何かを見るという行為、そうしたものに強く意識がいくようになっています。
また他人や身近な動物が何かを見、そこから何かを思ったり判断したりするのを、今までとは違った感覚で観察するようになっている気がします。

5億4300万年前の、カンブリア紀の大爆発のとき、眼という見事な器官と、光という情報を処理する神経系を発達させた生物……そのなかのひとつが、間違いなく、今のぼくの生命につながっているのです。


眼が見えるということの意味。
なんという壮大な歴史。


2007.12.03 - 09:00 PM ||コメント (0)

森達也『死刑』

死刑を肯定する立場から否定派へ投げかけられる言葉、たとえば「おまえの家族が殺されても犯人を死刑にしないのか」といった言葉に、ひとつひとつ答えていくことで、少しでも状況を変えることができるかも、という期待をしていました。
もちろんそうした試みは意味のあることだと思っています。
しかし、今の日本社会で、八割を超える人が死刑に賛成であるという状況の根本は、「論理が理解されていない」「事実が知られていない」ということよりも、すぐれて感情的な部分にあるのだ、ということが、今更ながら思いいたってきました。
それは、「感情を元にして死刑が叫ばれている」という側面ではなく、「感情を動かすための装置としての死刑」という側面です。

森達也さんの『死刑』は、途中から論理を追うことを止めて(論理的に死刑を肯定することができないのはもうわかった、と)感情に切り込んでゆきます。
自らの感情を「なぜ、なぜ」と問いながら、様々な立場の人の感情に見事なインタビューで立ち入ってゆく展開は、さすが、森さんならではのものです。
引き込まれてどんどん読み進めたくなる一方、一ページ一ページに刻まれた言葉をぼくの感情にも照射し、じっくり見つめてみたくもなります。『A』のような映像作品とは違い、そうして立ち止まりながら自分のペースで読み進められるのは、本というメディアのよさですね。

死刑に関して、ここのところぼくが気になっていたふたりの人物、藤井誠二さんと本村洋さん。彼らへ、期待どおり森さんはアプローチしてくれています。
藤井さんと森さんの対話、本村さんのメールを読み、死刑肯定である彼らの立場と思いが、何かストンと腑に落ちた気がしています。改めて、彼らの書いたものを読んでみよう。

そうして、「それでも僕は彼ら(死刑囚)の命を救いたいと思う」と繰り返す森さんの言葉に、これほどまでの力強い思いを持ち得ていない自分の非当事者性を、第三者としてただ論理を頭でこねくり回しているなあということを、感ぜざるを得ませんでした。

もちろん森さんも立場は第三者なのです。が、「他人の立場に立って考える」というのとも違う、そのもう少し先にあるもの、「様々な他人を含む同じ社会の構成員としての当事者」とでも言うべき立ち位置にいる森さんが少しまぶしく見えました。

死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う
『死刑 ——人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う』
朝日出版社
ISBN:978-4255004129

2008.02.16 - 10:45 AM ||コメント (0)

『冤罪File』

冤罪File

ごく軽い装丁で気軽に持ち歩けるのに、胸の中には、実にずっしりとしたものが残る一冊です。
私たちが本当はどんな社会に生きているのかということを知りたい人には……いえ、日本の社会と関わりのあるすべての人に、必読だと思えます。
わずか380円。

自分も無実の罪でひょっとしたら死刑にまでなるかもしれない。
「いくらなんでもそんなことはあるはずがない」
というごく普通の感覚を、ごく簡単に打ち破られます。
打ち破ってくれるのは、この国の警察、そして決定的なのは、裁判所。

この雑誌の魅力は、様々な事件についての記事の内容はもちろんですが、編集の姿勢にあります。
警察や司法にある問題をえぐり出そうとする記事は、少ないながらもいくつかの媒体に載ることはありますが、そうした記事の多くは「国家権力を糾弾する!」といった主張につながりがちです。

でも、そうした見方は、本質を見誤る恐れがある、という考えが、この雑誌を貫いています。
事実をひとつひとつきちんと見ていく、というジャーナリズムの基本を忠実に守ることで、問題の恐ろしさが見事に浮き彫りになっています。

先日テレビ放映のあった映画『それでもボクはやってない』の周防政行監督のインタビューが巻頭。

記事のタイトルは、サラリーマン向け週刊誌や、『噂の真相』や、サヨク雑誌にありがちな「!」マークの多いつけかたをしているのですが、中身の印象は、それらとはずいぶん違います。
誌名、記事のタイトルが、黒と朱の太いゴシック体だけで構成された表紙は、もう少しなにか工夫のほしいところだけれど、そんなことにお金をかけたところで買う層が増えるわけでもなさそうだから、しょうがないかな。

次号は5月発売だそうです。この雑誌が頻繁に出るほど冤罪が多いことを望むわけではありませんが、しかし実に次も楽しみです。

2008.03.08 - 10:32 AM ||コメント (0)

日本の電子本の暗い未来

電子書籍端末売れず──ソニーと松下が事実上撤退

Sigh...
前に書いたとおり、Kindleのような電子本端末が出現するのを今や遅しと待っているのですが……
なんと撤退……何考えているんでしょうか。いや、考えてないのか?

新聞が強固に今のビジネスモデルをごり押しするのと同じで、既得権益を手放そうとしないあまり、新たな商機を完全に失うまで気がつかない、ということでしょう。
iPodにやられたのと同じ。

日本の場合の最大の問題は、新しいビジネスモデルを作ろうとしないことから来るコンテンツの不足と、閲覧に対する制限です。
読者にとって一番便利なのはどういうものかということから考えずに、どうやったら権益を守りつつおいしい思いができるかということから考えている。結局守れないのにね。
コピーがカンタンにできないとか、60日しか読めないとか、何のためにネットワークとデジタルを使うのか、ユーザーからすればまったく意味わかんない不便な仕様にしておいて、売れるわけがない。

本箱にあるすべての本を端末に入れて持ち歩けたり、サーバーにある自分の「本棚」に簡単にアクセスでき、一度購入した本を永久に保持していられるのなら、みんな使うでしょう。iPodにすべての手持ちCDが入ってしまったように。
特に日本の都会では、本欲しくても置く場所がないんだから。

まあ、Kindleもおもったほど大成功というものではないようですが、その要因はやっぱりKindleにもある不自由さ・不便さによるのだと思っています。

iPhone/iPod touch用のコミックブラウザは、すでにJail Breakしたもの用にはあるようですが、正式にも間違いなく出るでしょうね。
ボイジャーもなんか出すんじゃないかと期待してます。

既存のPC用電子本リーダーのUIは……TeaTime系はまだマシですが、でもまだ改善の余地ありと思います。
一般的には、あまりに本のメタファをおいすぎるあまり、逆にデジタルである利点を失っているものが多すぎると感じます。


しかしこの撤退は、市場にあまりいい印象を与えないから、国内で再度挑戦しようという機運は生まれなくなるでしょう。
出版業界・メーカーは真の原因がわからず(または考えたくなくて)「デジタル本は日本では売れない」という結論にしてしまって、それだけが重く残り、新たな企画は出なくなる(出せなくなる)でしょう。
しかしケータイのコミックや小説市場は育っているので、「パラダイス鎖国」状態がしばらく続いて、それから日本語版KindleもしくはiPhone/iPodによるリーダーの登場で、またしても国内市場がUS企業にもっていかれる可能性大ですね。

しかしこればっかりはアプリケーションやそのUIが優れているだけではだめで、コンテンツが提供されないといけないので、政治力がものをいう世界。

Amazonががんばってくれるか、もしくはジョブズ御大が立ち上がってくれるか……しか今の希望はないかも。
御大は、本なんかiPodで読むもんか、って言ってるみたいだけど、ビデオについても同じことを前言ってたし……音楽市場をすっかり変えてしまったように、世界中の出版市場を変えてくれることを願っています。別にジョブズでなくてもいいんですが、いずれにせよ黒船が来ないとだめじゃないか……と。

2008.07.02 - 12:59 PM ||コメント (0)