もんじゅの知恵はいかばかりか
夏休みを福井ですごすことに決めたのは、小浜を訪ねたいという思いが一番の理由だけれど、でも、それだけではなくて。
一度、「原発銀座」を見てみたかったのでした。
小浜の港から観光の船に乗って、様々な姿に変化する岩場を回る「蘇洞門(そとも)めぐり」でまず見たのが対岸にある大飯発電所。 ここらの原発はだいたい岬の先のほう、海側にあって陸側からは隠れているのが多いので、港からは見えないのですが、そういえばホテルからこちらの方向を眺めたときに、海に突き出している小さな半島なのに、やけに高い鉄柱が稜線に沿うようにあるなあ、と思いながらそのときはあまり深く考えなかったのですが、この発電所からの送電線でした。
そしてどこか見学ができるところ……と思って調べて、やはりここ、高速増殖炉「もんじゅ」に行くことに。
もんじゅの見学は、行く前にあらかじめ
- 電話で受付代行会社に申込み
- 日本原子力研究開発機構(動燃=動力炉・核燃料開発事業団、だと思っていたらいつのまにか名前が変わっていた)から電話が来て予定日時確認、仮受付。
- 同機構からメールで申込書(Excelファイル)と見学の注意点など書かれたファイルが送られてくる
- 申込書に記入してメールで送付して本申込。
という手順を踏まなければならず、けっこう面倒でした。
申込にあたってはぼくの連絡先だけでなく年齢、性別、勤務先、同行者の住所、前後の予定、車ならそのナンバーなども全部書く必要がありました。
勤務先までなんで必要なのかと思い、問い合わせたらていねいな返事がメールでかえってきて、原子力関係者かどうかをチェックしているとのこと。
まあ、核施設なので、少し厳重なほうが安心はするのでいいのですが。
小浜からレンタカーで1時間ほど。もんじゅに到達する直前に、美浜原発があります。 ここは港や海水浴場から海をへだてた眼の前にあり、けっこう近くに見えます。波止場で子どもが釣りしていたり、若者が海水浴したりする背景に原発があるという風景です。
美浜からトンネルをぬけて、いよいよもんじゅ。
もんじゅには見学者むけの施設が併設されています。
受付のそばの大きな液晶テレビに「ようこそ」、と、ぼくらの名前が表示されていました。身分証明書を見せて確認したあと、見学開始。二時間のコースを頼んでいました。
最初は300人ぐらいは入れそうな階段式のホールで、もんじゅのしくみの立体映像(偏光グラスで見る)と、ナトリウム漏れ事故についてのビデオ。そのときの見学者はほかにはおらず、ぼくと相棒のふたりだけだったので、広いホールの真ん中にポツンと座って。
しょっぱなから事故についての解説だったので、へぇと思ったのですが、広報のしかたとしては正しいです。
事故のことを知らないで見学にくる人(小中学生などもくるようですし)もいるから、わざわざ知らせることになりますが、わざわざ知らせるべきことですし。
まぁしかし、運転再開にむけてなんとか理解を得たいという必死さのあらわれ、でもあるのでしょう。
見学施設には当然のことながら原理やしくみを説明する模型などがあり、ずっとつきっきりで説明してくださる方の解説を聞きながらそれらを見て、なかなかわかりやすかったです。
施設の二階は事故についての展示が主で、ナトリウム漏れが起きた温度計の現物や、それがつけられていた大きな管の現物があります。温度計をどのように改良したか、新たに事故が起きたときに発見したり対応するしくみをどのように変えたか、などなど。
その後、映画で見るような重々しい警戒をしているゲートをとおり、トンネルをくぐって、もんじゅの敷地内部へ。施設の中までは入れてくれないので、少し高みにある展望台から、間近にもんじゅを見下ろすかたちです。敷地内部は残念ながら撮影禁止。
もんじゅが熱交換の媒体として使っているナトリウムとはどういうものか、という説明や、それを理解するための展示に力が入っていました。
なので、ナトリウムという物質の性質や、それを使っている理由などはよく理解できました。
説明員の方には、元研究者らしい情熱あふれた、ていねいで気持ちのよい案内をしていただきました。
なので申し訳ないことではあるけれど、ああした施設や機構に対しての不信感、不安感は、ぬぐうことができませんでした。
ナトリウム漏れ自体は、たしかにまあ大した事故ではないともいえるし、改良も適切になされているのでしょう。
なので同じ事故は起きないかもしれない。
温度計の、予測していなかった振動が事故の原因なのですが、だとすれば、何かほかの機器もまた、予測しない動きをして、こんどは重大な事故になるかもしれない、ということもまた言えるでしょう。事故は、完全に安全なことはない、ということを示しているわけで。
しかも、大した事故ではなかったにもかかわらず、適切な情報公開がされなかったということを、やはり忘れることはできません。
大した事故が起きたら、ますます情報は伝わらないのではないか。
情報伝達上の問題や、事故予測の甘さへの対応、ナトリウム漏れ事故と直接関係する以外の部分での何らかの改善策については、2時間の説明の中で何も語られませんでした。
情報は、それが受け手によって理解されることで「知識」となり、その知識がさらに受け手によって十分に応用できるようになると、「知恵」と呼ばれるものになります。
もんじゅが、その名にふさわしい、そうした知恵を事故から得たようにはみえなかった、というのが、見学を終えたあとの感想です。
もんじゅ見学を終えて外にでると、真夏らしいカッと暑い日差し。
ああ、黙祷をしそびれてしまったねぇ、と話した8月15日、お昼すぎのことでした。
もんじゅ関連リンク
- ウィキペディア「もんじゅ」 [ja.wikipedia.org]
- 日本原子力研究開発機構 [jaea.go.jp]
- ストップ・ザ・もんじゅ [eonet.ne.jp]
などとのんびり書いているうちに、昨日、10月再開予定だった運転を2月に延期、というニュース。点検や確認作業の期間見通しが甘かったということなので、何をか言わんや。
[日記・コラム・つぶやき]
2008.08.20 - 11:32 PM
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