『新選組!』 みな、ありがとう!

これは予定稿です。
最終回が終わったタイミングで公開したいと思いながらも、最終回直後は、たぶん、ぼろぼろ泣きながら、腑抜けているだろうこと間違いなく、落ち着いた文章を書く自信はとてもないので、あらかじめ書いています。

学生時代、親と住んでいたころは、家族につられて大河ドラマを毎週見ていましたけれど、ここ10年くらいはまったく見ていませんでした。
『猫』からの三谷幸喜ファンではありますけれど、彼のドラマを全部欠かさず見ているかというとそういうわけでもなく、今回も「どうかなあ、おもしろいかなあ」ぐらいで見始めたのです。
新選組そのものについてもこれまで興味を持ったことがなかったので、組に関する史実の知識もほぼまっさらな状態でした。

まさかこれほど楽しみにすることになるとは……

毎週、リアルタイムで欠かさずドラマを見ること、それも、次の回を毎回これほど楽しみにして見たのは、そうだなあ、『北の国から』以来か。

必ずしもいつも明るいワクワクではなく、つらい展開を覚悟しながらということも少なくなかったのですが、いずれにせよ、日曜の8時前になるとそわそわしてきて、ダダダンズッダーンと誠の旗が画面に翻るときにはテレビの前にかしこまっているという日々。
昔はビデオもなくて録画できなかったから、ドラマは定時に見るのが当たり前でしたけれど、最近はリアルタイムで見ることができる場合でも、トイレ休憩したり巻き戻して確認したり、時間を有効に使えるから、ビデオに撮って見るのが習慣でした。
しかし、そもそもドラマ自体、ここ数年ほとんど見ることがなくなっていました。

それなのに、しかも歴史物である大河ドラマを。

途中からは、さすがに気になって歴史のおさらいをしたりもして、大まかな流れと主な事件は頭に入って見ているので、ストーリーがこの先どうなるのだろう、ということはないのです。
それなのに、毎週欠かさず、録画も待ちきれずにリアルタイムで見ることになるとは。


はじめの「多摩編」は、のんびりとしていて、やや冗長と思えるぐらいのときもあったのですが、近藤土方たちが京都に出てくるぐらいからどんどん引き込まれ、そこへきて、多摩編でのキャラクター作りが活きてきて、どの登場人物も、それぞれがそれぞれの人生を背負い、それぞれの思いを抱き、それぞれの運命を担っている重みが、あらゆるシーンの中で表現されてきて、いっときも眼を離せない感じになってきました。
すごくたくさんの登場人物がいて、そのひとり一人の登場していたちょっとした場面がちゃんと意味を持ち、ずっと後の回のふとした科白回しで想起させられ、そうしてつながったエピソードがその人の生き様や思いを、端的に表現しているのです。

全編通しての一番の山場は、なんと言っても、山南さんの死の回。
あの回は、もう土曜日から、ああどうしようもう明日山南さんが死んでしまう、と気分がそわそわし、日曜8時前にはティッシュ用意の上、しっかりテレビの前に正座。
ドラマを見ながらあれほど泣き通しだったこともなかった。
こう書いていても、山南さんのあの笑顔が脳裏にうかび、明里の言葉が耳に響き、泣けてきます。山南さん亡きあと、劇団ひとりの「どこでも涙」芸を、ぼくも身につけたと言っても過言ではないでしょう。

そして、その次の回は、実にまた三谷幸喜らしいすばらしい楽しさに満ちていて、笑いっぱなし。
そのコントラストも含め、この二回は見事でした。
大河ドラマであんなに泣き、あんなに笑うことは、二度とないでしょう。


敵役も含めて、登場人物がみな、まるで目の前にいる仲間たちのように、存在しています。
見てない人にはわからないでしょうけれど、山南敬助を「山南さん」としか呼びようがなくなるのです。もちろん山南さんだけではありません。名前のある登場人物のすべてに、リアリティを持った個性があり、その人の所属や地位や歴史の流れの中で、ほかの誰でもなくそのひとそのものとして生きてある、という存在感と魅力を持たせている三谷幸喜の脚本は、本当にすごい。

そして、それぞれを演じている俳優さんたちの入れ込み方もまた、並ではない。俳優の個性と良さを出しながら、役と同化しているかのような。
登場人物が多いので、個々のキャラクターの出演時間は相対的に少なくなるのですが、誰をとってみても、実に様々なシーンの様々な演技が、表情が、科白が、まざまざと脳裏に浮かびます。どの役を演じているどの人も、みんな、好きです。
もう一度見てみたい、と思うシーンが、ほんの30秒ぐらいのシーンも含めて、山ほどあります。

DVDが出ますから、買うなり借りるなりして、見たい回は、これから何度でも見ることになるでしょう。
しかし、日曜日の夜の45分と、その後で、ネットの掲示板で感想を読みあさったり、ほぼ日のドラマページの更新を見にいったりしては反芻するのを楽しみにしていた日々が終わってしまうことには、いいようのない寂しさがあります。

もう少しだけ残っている楽しみがあるとすれば、これほど個性とエピソードにあふれたものがたりを、どのように編集してまとめるのかが気になる総集編。

そしてできたら(いろんな人が言っていますが)、その後の土方を描いたドラマを、見てみたいものです。


たぶん、今年一年、「新選組!」を見てきた人とは、余裕で一晩、語り明かせるでしょうし、語り明かしたいものです。知人友人のみなさま、ぜひお声がけを。

そして未見の方は、ぜひDVDにて。その場合、たぶん最初の多摩編から見出すと「なんかだらだらやってんなー」というときがくるかもしれません。そう思ったらちょっととばして京に行くあたりから先に見て、それから時代を戻って見る、というのもおすすめです。あ、あそこのあの科白はこういうことだったのか、ということがたくさん見えてきて、それがまた面白いと思います。


ひとが、生きていくこととは、こういうことなのだ。
楽しさも悲しさも喜びもつらさもみんなひっくるめて、こうして生きてきたし、生きているし、生きてゆくのだ。
生まれて、生きて、死ぬことは、どのような生き方をするにしても、けっこういいもんだ。
そんなことを、つくづく、感じさせてくれる、すてきなドラマでした。
三谷幸喜へ、俳優のみなさんへ、これを作るのに関わったすべての人へ、ありがとう。


それにしても……ああ、もうほんとに終わりなんだなあ……。

[映画・演劇・テレビ] tag:
2004.12.12 - 09:00 PM |
「電車男」著作権と「知的財産」 | 尊皇情意

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