『恋の門』

羽生生純+松尾スズキという取り合わせに、カナリ期待していたのですが、予想以上の出来、という言葉を使うのは失礼ではないかと思うほど。松尾スズキ、すばらしい。
脚本、カット割り、音や音楽の使い方、どれも、うまいなあ、と声をもらしそうになりながら、見入っていました。

平日の夕方だし、日本映画の人気のなさに乗じて、我が物顔でビッグスクリーンを堪能するのが気に入っているぼくとしては、今日もそんなもんだろうと高をくくっていたのですが、早めに整理券をもらってよかった、9割方の客の入り。
たまたま女性1000円デーだったからというのもあるのでしょう、客の8割は女性。
しかしほとんどが高校生・大学生ぐらいの女の子たちで、羽生生純と松尾スズキの映画にどーしてこんなに若い子が? オタクが主人公だからと、その筋の人たちが来ちゃったのか? でもそんな雰囲気でもないし……と客層にはカナリ疑問。まあ『恋の門』というタイトルと、松田龍平+酒井若菜から、普通の恋愛映画、という感じで見に来たのかな? それにしてはカップルは少なかったな……。

映像は、飽きる暇なく展開し、笑わせ方、間の取り方が独特でありながら、ワンパターンにはならず、次々に引き込まれます。主人公の三人が漫画で競うシーンの文字通りの「コマ割り」、門と恋之が初めてひとつになるシーンの「ペン入れ」といった映像アイディアは秀逸。

蒼木門に松田龍平、恋乃に酒井若菜。これは原作のイメージに近く、見る前からいいキャスティングだなあと思っていましたが、二人とも、演技も見事にはまっていました。
松尾スズキは監督の役得すぎ、とも思いますが、原作の毬藻田と体型がずいぶん違うにもかかわらず、雰囲気はそのもの。
脇役もみんないいです。
小島聖、キヨシローも自身の個性を発揮しながら役所おさえてましたね。松尾スズキとキヨシローは「チキン・ハート」でも主役を共演していましたけれど、ふたりとも、あれよりずっといい。
帰ってきてからパンフ開いてびっくりしたのは尾美としのり。何をやっても同じ雰囲気になる金太郎飴タイプの役者だと思っていたんですが、まさかあれが尾美としのりだったとは全然気づかなかったよ。
それから、イメクラの客二人が似ていておかしく、誰だろうと思っていたんですが、桝野浩一と河井克夫とは、びっくり、そっくり。
塚本晋也ってあんなドロドロした映画撮ってるのに見た目えらいフツーの人なんですね。
それと、小学生キンゴ、高橋征也くん、かっこいいネ。
そのほか、いい味出してる脇役さんたちは、みんな大人計画の人たちでした。こういうの見るとやっぱり演劇の底力を感じます。

脚本は、後半からオリジナルになっていきますが、原作のエピソードをうまく加味しながら、エンディングへきれいにまとめていく構成で気持ちいい。
あの漫画を、よくこれだけ忠実に映像化しながら、オリジナリティあふれる作品にしあげたものだと感心します。

「小道具」として登場するソウルキャリバー、イデオン、エメラルダスなどは、ぼくの好きだったタイトルなので、それも楽しかった。ストII/バーチャ、ガンダム、ヤマトと比べて「やや傍流なんだけどマイナーではない」あたりであるところがいいんですね。
イメクラが「綾波レイはじめました」と看板を出すというのは、都市伝説(?)では「綾波はじめました」だったと思いますし、大竹しのぶがわざわざ「イデオンのコスモとキッチンなの」と説明するというのも、トリビアを抑えて一般化しようとしているのか、いい感じです。もっとも丁寧にしたからと言ってわかんないひとにはわかんないままでしょうけれど。
そういう意味では、今日の客層が、オタク系やサブカル系でなかったことは、その系なら声を上げそうなところで無反応だったから、やっぱり普通の人たちだったんでしょうね(それがわかるのって……ううん)

しかし、そう考えるとぼくが気が付かなかったいろんなことがまだまだいろいろ含まれているような気がしますし、それに端役でいろんな人が出てることもあり、DVDになったら買っちゃいそうだなあ。
DVDにはぜひ副音声で松尾スズキのリアルタイム解説が欲しいです。

今年見た日本映画では『茶の味』もよかったですが、『茶の味』ではアニメーション、『恋の門』では漫画が、登場人物の中で重要な役割を果たしているところが何とも今の日本的。そういえば庵野秀明は両方の映画にチョイ役出演してますね。
ストーリーとは脈絡があまりない音楽が、しかし強力に入ってきて印象を残すという点と、なぜか宇宙に飛んでいくという点も、両者に共通しています。

総じて、テンポがとてもよく、主人公たちの心の動きに引き込まれながら、わくわくできるいい映画でした。
原作を読んでいなくても、いろんな「小道具」知らなくても、純粋に楽しめる作品です。星四つ!
映画館が明るくなるとすぐ、客席から「あー面白かった」という女の子の声があちこちから聞こえました。

松尾スズキには、また撮ってほしいなあ。


[映画・演劇・テレビ]
2004.10.13 - 08:46 PM |
参照よ永遠に | ミムラ チヒロさんからのメール

コメント

コメントを投稿