こうの史代 『夕凪の街 桜の国』

宇宙の、地球の、生命の、ヒトの歴史という時の流れの中に、自分がいることを知り、感じることができるのは、ヒトとして生まれ生きている幸福のひとつだろうと思う。
自分が今、ここで生きている、ということ。いつかは必ず死ぬ、ということ。
自分以外のすべてのひとも同じだということ。
それを理解するための知識と、感じるための想像力が与えられている奇跡に感謝したくなる。

そして、その能力を最大限に発揮して、ほかのひとに伝えることができるひとがいて、その作品に接することができるということにも、感謝する。

100ページあまりのこのマンガは、そのページ数にかかわらず、読み終えるのに時間がかかる。
ストーリーが難しいわけでも、重いわけでもなく、むしろ軽快。
絵が複雑なわけでもない。やわらかく、むしろかわいらしい。
にもかかわらず、1ページ1ページ、ひとコマひとコマを軽く読み流していくことはできず、ついじっくりと見入ってしまう。
一度読み終えても、また何度もまた読み返してしまう。
そして読み返すごとに、作家が込めた思いや意図を新たに発見して驚き、心に響く。

日常の生活のなかの小さな所作やモノをていねいに念を入れて描き、そうした表現が、ひと同士のいろいろな関係や、時の流れの中でそれぞれの生き方を選択していくことに見事につながっている。

だれかが、憎しみや利益のためにおこす争いに、理不尽に巻き込まれることの痛み。
ほんの気まぐれのような偶然だけで、生き残ってしまったことの苦しみ、生きている希望。
記憶を手渡してゆきたい、それを受け取りたいという思いが、時を超え世代を超える。

ひとが、抱えて生きている喜びと悲しみ。その両方に、涙する。

夕凪の街 桜の国 』 こうの史代 ISBN:4575297445

[書籍・雑誌] tag:
2004.11.25 - 07:11 PM |
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» とりあえずスタート/「夕凪の街 桜の国」 [ otokuniチャンネル]2004.12.05 - 04:30 PM
世の中にブログといふもののあんなるを…… ということで、とりあえずはじめてみました。 でも、よくわかんないです、正直。トラックバックとか説明読んでもいまいちぴ...