『隠すマスコミ騙されるマスコミ』

隠すマスコミ、騙されるマスコミ 』読了。

小林雅一著、文春新書
ISBN:4166603183

興味深い内容だったが、気になるところが少しだけあったので著者にメールを書いてみた。

以下、著者へのメール。

小林雅一様

はじめてメール差し上げます。
『隠すマスコミ騙されるマスコミ』を拝読いたしました、一読者です。

本書では、米国での様々な実例を知り得たこと、日本の報道の問題の再確認など、得るところが多く、ご活動に敬服いたします。

ただ本書で二、三、気になった箇所がありましたので、大変僭越ですが、指摘させていただければと存じます。


●P.50

ドクター中松はその昔、灯油ポンプやフロッピー・ディスクなどの基本特許を取った優れた発明家だ
「ドクター中松」がフロッピー・ディスクの「基本特許」を取っているということについて、事実をご確認されているのでしょうか。
これは本人がそう言っている以外の確認がとれていない、大変怪しい事柄で、おそらく事実ではないだろうと思っていたのですが、もし事実をご確認であればそのソースを教えていただきたいのです。

ドクター中松の研究としては下記が力作で、参考文献として本書も掲載されているのでご存じかもしれませんが、
ドクター中松研究報告
ここにある報告やリンク先を読む限り、フロッピー・ディスクの基本特許をドクター中松がとっているとしてしまうのはまさに「騙されるマスコミ」の好例としか思えません。
おもしろおかしく半分ジョークとしてテレビ番組などが紹介するのでさえ、ドクター中松の「騙し」に荷担しているようで不快に思っているのですが、「騙し」そのものをテーマにしている本書があたかもそれを事実であるかのように書かれているのにはかなり驚きました。
しかし、もし事実であることを確認されているのであれば、むしろ非常に重要な情報ですので、その点、お尋ねしたく思いました。


●P.70

最後に、こうして出来上がった「人物」や「物体」を3D化する作業が残っている。通常の実写映画を三次元化するためには、若干位置を移動した二つのカメラで撮影した映像を組み合わせる必要がある。これをアニメーションで実現するには、視点をずらした二通りのコマをCGで制作することになる。人間が二つの眼から入って来る別々の映像を、無意識に一つの映像に重ね合わせて立体化するのと同じ原理だ。人間の視神経は驚くべきスピードと制度をもってこの仕事をやり遂げるが、これをコンピュータ・プログラムにやらせるには、高度な演算能力が必要とされる。
このくだりは、人間が二つの眼で立体視していることと、3DデータによるCG映像を作ることが完全に混同されています。
脳の立体視処理と、ドリームワークスなどが作っているアニメーションのCG映像とは、まったく関係がないでしょう。
強いてあげれば、ディズニーランドの「ミクロアドベンチャー」やユニバーサルスタジオの「ターミネーター2:3-D」「シュレック 4-Dアドベンチャー」などでは、「視点をずらした二通りのコマをCGで制作する」ということをしていると思われますが、これらは「人間が二つの眼から入って来る別々の映像を、無意識に一つの映像に重ね合わせて立体化」させるため、つまり実際の三次元物体として認識させるように人間の脳を騙すためにそうしているのであって、一般的なCGアニメの技術とは本質的には関係がありません。
さらに言えばこうした立体視される3D映像を作るのは、視点を少し変えた画像を作る「だけ」でよく、そうして作られた映像は、現実の世界を立体として認識するのと同じように、脳内の処理によって立体感を得るものなので、それによってコンピュータに「高度な演算能力が必要」になるわけではありません。一般のCGアニメーションに比べて、両目用の画像を作る必要があるために、2倍の時間がかかるというだけでしょう。
CGにおける「3D」は、一般的には3次元データによって物体を描く(描かれた結果は平面=2D)ことであり、立体視という意味での3Dではありませんが、ここが混同されていると思われます。

またこのくだりの前にある、コマの補間についても、これまでの手書きによる2Dの一般的なアニメーションにおいて、アニメーターの作業がコンピュータ化によって自動補間できるようになったということでしょうから、いわゆる3Dアニメーションの技術とは関係がないと思われます。

これらの点は、CGによって現実と区別の付かない映像が作られるだろうことへの認識、といったここでの主題には、本質的に深く関係することではないのですが、事実としてかなり異なる記述であったので大変気になりました。

しかしながら、「CG俳優を使う場合、この外側の変化を人工的に作り上げ、それによって内側の心を表現するという、通常と逆のプロセスが必要とされる。」といった指摘はまさにそのとおりで、この点、たいへん興味深いものがありました。

●P.213

かなりの外貨を稼いだポケモンに代表される日本のサブ・カルチャーかもしれない。
ポケモンはサブ・カルチャーでしょうか? 「サブ・カルチャーとは何か」(←→メイン・カルチャーとは何か」)という認識もしくは定義の問題なのかもしれませんが、アニメーションや子ども向けであることは「サブ」である理由にはならないと思いますし(仮にそうであるなら「トイ・ストーリー」や「ニモ」は米国のサブ・カルチャーなのでしょうか?)何故に「サブ」カルチャーだとされているのかが気になりました。


以上、失礼ながら読ませていただいて気になった点のみを上げさせていただきましたが、しかし本書を通しては、新規の情報や重要な視点を与えていただき、大変参考になりました。
先日、9.11の3周年でいくつかの特別番組がテレビでも放映され、そこでもまたメディアから得る情報で判断することの難しさを感じたばかりです。
私たちのメディア・リテラシーの重要性は高まる一方ですので、また今後もこのような情報や視点のご提供に期待しております。

なお本メールの内容は、読書感想として私個人のBlogに掲載させていただきます。もしご回答いただける際には、そのご回答もぜひ掲載させていただきたく存じます。
友人のみが読んでいるだろう地味な(最近ちょっと更新も滞っている)Blogですが。
http://www.kazeiro.com/blog/

今後ともご活躍をお祈りもうしあげます。

[書籍・雑誌]
2004.09.13 - 09:36 PM |
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