気になる用語「わかった」
最近、新聞を読んでいて(ペーパーは取っていないのでサイトで読んでいて)、特に気になる用語のひとつがこれ、「わかった」という言葉です。
例えばasahi.comを今「わかった」で検索してみると877件がヒット。
20位内からいくつかをあげてみると……(内容が重要ではないので一部省略)
- 府肉連をめぐる偽装牛肉事件で、(中略)政治団体が事務所を置いていたことがわかった。
- 府肉連による偽装牛肉事件で、(中略)得ていた疑いのあることがわかった。
- 神奈川県三浦市三崎の(中略)が19日から行方不明になっていることがわかった。
- 厚生労働省の冊子発注をめぐる汚職事件で、(中略)受注していたことがわかった。
- 携帯電話の03年度国内出荷台数は(中略)研究所の調べでわかった。
気になるのは、この「わかった」の主語がない、という点です。
誰が「わかった」のでしょう?
「○○の発表でわかった」「○○の調べでわかった」という場合は、その「○○」自身は発表する前にすでに「わかって」いたはずなので、「わかった」のはその発表を聞いた記者なり新聞社でしょう。
しかしわかったことを記者が新聞で伝えるのはあたりまえのことで、なぜわざわざ「わかった」という言葉を使うんだろう。
上記の例はすべて、「わかった」を使わなくても書くことができます。
- 府肉連をめぐる偽装牛肉事件で、(中略)政治団体が事務所を置いていた。
- 府肉連による偽装牛肉事件で、(中略)得ていた疑いがある。
- 神奈川県三浦市三崎の(中略)が19日から行方不明になっている。
- 厚生労働省の冊子発注をめぐる汚職事件で、(中略)受注していた。
- 携帯電話の03年度国内出荷台数は研究所の調べによると(中略)だった。
また、「わかった」のがいつなのか、ということが不明なのも「わかった」が使われている文脈での特長のような気がします。
警察発表やシンクタンクなどの発表そのままを伝える場合に、伝聞であることを示したい意か、とも思ったのですが、一方で次のような書き方をしている記事もあるのです。
野村総合研究所の子会社のNRIセキュアテクノロジーズは21日、個人情報の取り扱いについて東証1部上場企業にアンケートしたところ、4分の3が「個人情報保護の社内規定はない」と回答した、と発表した。
伝聞とすることで、なんとなく微妙な責任逃れをしたい(あとで万が一事実でないことがわかっても言い逃れしたい)という気持ちの表れかとも思いますが、しかしそもそも、「わかった」というのは伝聞を示す言葉ではないので、であるならば「らしい」「そうだ」といった明らかな伝聞を示す言葉を使うべきですよね。
なので、責任逃れはしたいけれど、かといって、裏をとっていない、自分で調べたことではない、と思われるのは新聞社や記者のプライドを許さない、というような理由で「わかった」という言葉が使われているのでしょうか。
あるいは、事実の発生と、新聞での報知の間に時間がたってしまっているので、そのタイムラグに対するひけめのような感情が「わかった」に反映している、とか。
いずれにしても、何か腰がひけた、ずるい姿勢がこの表現にあるような気がしてなりません。
[編集・情報・ことば]
2004.04.23 - 02:13 AM
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<漫画『アクション』 | 「知らしむべからず」>
コメント
» きょうづかみつぐ: ( 2007.01.05 - 03:54 PM | 固定リンク)
あぁ、川添先生! こんなことなら、早くに知らせてくれればよかったのに! まぁ、今頃、読んでるお前が悪い!っていうのは承知の上だが。
「わかった」はですね、大新聞様はですね「第三者報道という、第三者からの視点での記事、つまり中立的な記事のスタイル。それによって、第二次大戦時におかしてしまった国家護持スタイルにならないようにしている」ということです。
はい、はい、詭弁です。大体、ある人が書いているのに「第三者」になれるのかという根本的な問題は語られていないわけです。もちろん、それへの反論は「記者→デスク→部長→局長と手を入れているので、ちゃんと第三者視点は担保されている」ということです。そうです、裏を取ってないからとか、責任逃れとか、記者クラブ制度を隠れ蓑にしているとか、そういうことなの(笑)。