筒井康隆『パプリカ』(小説版)
アニメ映画化されたのを機会に、読了。
筒井康隆は本作品を書きながら、一晩で髪が真っ白になるほど夢に「犯され」たそうです。
そういえば、テレビか雑誌で見た筒井康隆が、いきなり髪を全部白髪にしていて「いったいどうしたんだろう、今まで染めてたのかしら」と思っていた記憶があります。
……そんな思いまでして作られた作品なのだけれど、ぼくとしては、筒井作品としてはいまひとつな満足度です。(読者って残酷ですね)
理由のひとつは、千葉敦子というキャラクターのリアリティ。
こういう女性が、筒井康隆のひとつの理想像(たぶんパプリカというキャラクターも含め)なのか、とも思うのですが、行動のリアリティはともかく、ひとりの人間としてそのような行動をする理由が伝わってこない。
まあ、そもそも理由などなく、このような女性の存在そのものをひたすら愛で、描きたかったのかもしれません。
また、ぼくが最も尊敬する人間のひとりである今は亡きジャーナリストと同姓同名であるがゆえに、この名前を持つ人物像に対するぼくの評価は、かなり厳しくなっている可能性があります。
理由のもうひとつは、終盤の展開……これもやはりリアリティ、でしょうか。
別の言い方をすれば、説得力。
夢が現実と融合してしまうことの論理的(にみえる)説明を、ちゃんとしてほしかったなあ。
とはいえ、読み出したらおもしろくて一気に読み終えてしまったんですけれどね。
筒井康隆は、中学のときにファンになり、当時文庫化されていたものはすべて読破していたのですが、その後はなぜかあまり読んでいませんでした。
往年のファンとしては、他人の意識の中を覗くという設定、そして覗くのが美人女性、という点でどうしても七瀬シリーズを思い起こします。
七瀬シリーズでは、やはり一作目の『家族八景』。ちょうど思春期に読んだこともあるでしょうが、あの衝撃は忘れられません。自分のその後の「人間を見る目」に強い影響を与えたと思っています。
人生のどのような時期に読むかで、また評価もずいぶん違うでしょうから、そういう意味で単純に『家族八景』と『パプリカ』を比較して評価をしてはいけないと思いますので、これは今時点でのごく軽い印象でしかないことを断っておきます。
もういちど『家族八景』を、何十年ぶりかで読んでみようかな。
ちなみに、七瀬シリーズ二作目の『七瀬ふたたび』は超能力アクションものとして、『八景』とはまた違う視点でけっこう楽しめましたし、のちに少年ドラマシリーズ化されたときの、多岐川裕美が演じた七瀬もわりと好きでした。(当時ビデオなんてありませんでしたから、その一部分でも保存しておきたい一心で音をラジカセで録音し、画面を写真に撮ったりもしましたね)
パプリカ
新潮文庫版 700円(税込)
ISBN:4101171408
パプリカ
中公文庫版 780円(税込)
ISBN:4122028329
新潮文庫版の解説は斉藤美奈子、中公文庫版は香山リカ。
解説者の選択いいですね。どちらもぼくは信頼している方ですが、それぞれの解説、やはりなかなかよかったです。
家族八景
新潮文庫 460円(税込)
ISBN:4101171017
[書籍・雑誌]
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パプリカ
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2006.12.14 - 07:41 AM
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