『明日への遺言』

主人公が「美し」すぎる。
事実および大岡昇平の原作(『ながい旅』)は知らないのですが、少なくとも映画としては、ぼくは少しものたりない。
殺さなくてもよい人を殺せと命令した人物には、もっと葛藤があってほしかった。実際に手を下した部下は、「殺さないでくれ」と懇願する米兵に刀を振り下ろしたことへの苦悶を告白していますが、本人は部下を守るという大義と法廷闘争上の論理に身を固め、葛藤がみえない。
制作者の本意ではないかもしれないけれど、見方によっては、「美しい日本」を慰撫する「自慰史観」にも見えてしまって残念。

もちろん、東京大空襲を行った米国の非道さに疑う余地はないですし、その異常な状況下での出来事です。実際の岡田資中将は、葛藤の上での論理的判断から、あのような誇り高き行動をとられたのだと、であるからこそ大岡昇平も描きたかったのだと想像します。
この間日テレでやったドラマ『東京大空襲』は見損ねてしまったのだけれど、あれを見てからだったら印象違っていたかなあ。映画の冒頭の空襲の映像は、当時のものをそのまま使っていて、痛ましいものだけれどやや淡々としすぎていた。いえ、淡々としていても、眼を覆うような映像なんですけれどね。

でも、潔くカッコヨク死んでいくより、迷い恐れ悩みながら生きながらえていくところにこそ、ぼくは人の生きる美しさがあると思うのです。正直であるという美しさが。
……などと考えていると、つまりはぼく自身が、とうていカッコヨク生きられないと知っている、自己弁護、かもしれないですねえ。


細かいことですが、劇中、坐禅を組みながら南無妙法蓮華経を唱えていたのに違和感。そんな宗派あるのかなあ。

[映画・演劇・テレビ]
2008.03.27 - 09:09 PM |
パラメトロン | 観劇『だるまさんがころんだ』

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